2015年12月4日金曜日

ノルウェイの森

「ねぇ、ワタナベ君、私とあれやろうよ」と弾き終わったあとでレイコさんが小さな声で言った。
「不思議ですね」と僕は言った。「僕も同じこと考えてたんです」

レクイエムのシーンが好きです。あの場面で主人公がレイコさんと寝たのは、物語の中で一番意外で、一番素敵な理由だと思ったから。

直子の、生きようとした願い。ワタナベ君の、直子を外に連れ出して暮らしたかった願い。レイコさんの、二人が幸せに結ばれて欲しいという願い。それらは叶わなかったけども、二人を見届け抜いたレイコさんだからこそ直感した。

濡れなくてセックスできないことが、外の世界と繋がれないことを象徴したまま、死を選択するしかなかった直子のために。その悼みを全身で抱く二人として、セックスしたい。それは贈り物であり、この物語への純粋な慰めなのだ。

再生の転換はレイコさんにあった。直子から緑へじゃない。それが示されたあのラストでいいんだと思うよ。

妻の母からもらった『ノルウェイの森』(下巻紛失して買い替え)
村上春樹著 ISBN 4-06-274869-X